第4話 発信の設えとは?

前回は、地域づくりにおけるファシリテーションの役割を「設(しつら)える」と表現し、3種類の設えを示しました。

すなわち、「プロセス」、「空間」、「発信」の設えです。


こうした設えにより、リーダーが目標に近づくことができる。

その側面支援がファシリテーション。

そういう仮説です。


単純な仮説ですが、この考えに至るまで何十年もかかりました。

色々なことを学び、経験するたびに頭の中がごちゃごちゃになります。

それが少しずつ整理され、ようやく単純な話に集約することができたのです。


その過程で、恐らく無数のファシリテーションを僕が受けてきたのでしょう。

ファシリテーションをしてくれた人も、そして僕自身も無意識のうちに。

そのような無意識の営みを可視化したい、というのも僕の大きな目的です。


さて、ごく単純になった仮説。

とはいえ、言葉だけではなかなか伝わりにくい。

そこで、研究会の仲間たちとの最初の寄合に向けて、 図で示すスライド資料を作りました。

2020年11月から12月にかけてです。


どのような図を描けば伝わりやすいか?


明確な考えが最初からあったわけではありません。

まさに「描きながら考える」過程でした。


そのなかから実は大きな気付きがありました。

今回はそのことをお話したいと思います。


僕は「いらすとや」というイラスト素材のサイトのファンです。

いまでは世の中の様々なところで用いられています。

ほのぼのとした温かみのあるその画風を見れば、知る人には一目瞭然。

「あっ、『いらすとや』の絵だ!」と気付くことがしばしばあります。


僕自身も10年以上前から「いらすとや」を愛用させていただいています。

作者と面識はなく、やり取りをしたこともありません。

単純に、インターネットを介した無償サービスの利用にすぎません。

規約の範囲で自由に使わせてもらえることは本当に助かります。


今回も、いつものように「いらすとや」の素材を使おうと考えました。

そして、できたのがこのスライドです。 

これも、こうして見れば、ごく単純なスライドです。

ただ、できるまでには当然、無数の段階の思考が働きました。


イラスト部分については、計4点の素材が用いられています。


第一に、たすきを肩にかけた女性。

「いらすとや」には検索機能が付いています。

そこで、「リーダー」と入力してみました。

出てきたイラストたちはどれも素敵でした。

でも、僕が漠然と期待するものとはちょっと違う。


そこで、次に「主役」と入力しました。

そして出てきたのがこの女性。

パーティーでの一場面でしょうか。

注目を集めるリーダーを示す絵として合っている気がします。

これにしよう、と決めます。


ところが、ここで僕はもう一つ選択を迫られます。

男性版のイラストもあるのです。

まったく同じ状況で同じ構図。

片や女性。片や男性。


地域づくりのリーダーに男女は関係ありません。

さて、どうしたものか? 迷います。


2つの絵を並べるのがよいか?

いや、でもここでは1人だけ置くほうが単純で伝わりやすい。

では、女性にするか? 男性にするか?


僕の選択は女性でした。

地域の既存の意思決定者は男性が多い。

これからは女性のリーダーがもっと増えてほしい。

それを側面支援できるファシリテーターでありたい。

そんなようなことを無意識に考えて選択完了。


第二に、黒子です。

本来、主役と対になるのは脇役。

しかし、「脇役」で検索しても、「いらすとや」には素材がない。

確かに脇役というのは絵では伝えにくい概念かも?


そこで、次に「黒子」で検索。

出てきたイラストが即、採用と決まりました。

ここで一つの気付きがあります。

「脇役」より「黒子」のほうが視覚的に一目瞭然であることです。


第三に、「光を当てる」行為。

「光」で検索してみます。

すると、実にたくさんのイラスト素材が出てきます。

「UFOにさらわれた人」とか「ドビュッシーの似顔絵」などまで!(笑)

月の光の旋律が頭の中で流れました。


僕はまた無意識で考えます。

ここで表現したいのは何だったっけ?

そう、光を当てるという行為です。


すると目に飛び込んできたのは「レフ板を持つ人」のイラストでした。

れふばん。何という地味な光の当て方。


でも、ちょっと待てよ。

主役ならスポットライトが似合う。

黒子なら、レフ板の控えめな光のほうがかえって似合うかも?

そうしてレフ板をもつ人に決定。


主役、黒子、レフ板を持つ人。

この3人をどう配置するか。

あれこれ試しながら、位置取りが決まりました。


このとき、僕は思い付きます。

主役に光が当たっていることも表現したい。


そこで、第四の要素が欲しくなります。

主役に当たる光。


再びUFOやドビュッシーなど「光」のイラストを見てみます。

すると、「いろいろなキラキラ飾り」というイラスト群が目に入ります。

そのなかから、塩梅のよさそうな素材を選びます。

それを主役の顔の周りに配置して完了。


以上が、この一枚のスライドの開発秘話です。

って、大げさすぎ?


なぜ、このような過程をわざわざ事細かに振り返るのか?

それは、僕が受けたファシリテーションに注目するためです。


僕には伝えたいメッセージがありました。

でも、それをどのように視覚的に表現すればよいか?

それは漠然としていました。

だから、真っ白なキャンバスに絵の具でいきなり描けと言われても、うまく描くことはできなかったことでしょう。


そこで、「いらすとや」の検索機能を頼りにしました。

キーワードを入力。

出てきた選択肢からヒントをもらう。

選ぶ過程で、自分が伝えたいことがだんだんはっきり見えてくる。


その結果、スライドを作る前よりも、 僕は自分のメッセージを他の人に伝えやすくなっている。


これこそ、発信の設えではないか!

そう気付いたとき、静かに、でも確実に僕は興奮しました。


「いらすとや」は単に素材を提供しているだけでなく、 発信者の能力を高めているのです。

しかも、発信者と直接やり取りすることもなく。


ちなみに、「いらすとや」のサイトには「検索のコツ」という解説もあります。

発信の設えをさらに設えているのです。


これはすごい。深い。

「いらすとや」さん、ありがとう!


リーダー本人の発信の能力が高まること。

それを設えるファシリテーション。


身の周りで、このようなことが起こっているのか?

もっと具体的で、双方向的な事例を集めてみたいです。


発信の設えを巡る探求はまだ始まったばかりです。

夜な夜な、無意識に考える僕ですが、答えはまだ出ません。


月の光の穏やかな旋律が頭の中で流れて、 うつらうつらと眠りに落ちてしまうだけなのです。


思い当たる例をご存知の人は教えてください。

あるいは、僕の夢に登場して月の光を浴びながら実演を!

(えっ、気持ち悪い? それは失礼しました) 

地域づくりファシリテーション研究所

地域づくりの活動それぞれにリーダーが必要。でも、リーダーだけいればうまくいくとは限らない。側面支援も大切。この側面支援を「地域づくりファシリテーション」と称して、その役割を考えていきたい。研究所と名乗っているが、とりあえず仲間たちと共にこじんまりと議論し、実践していくなかでの気付きを記録していく。

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