第59話 対馬での学び その4
川口幹子(かわぐち もとこ)さんとの対話について。
haruデザインさんのグラレコ(第57話)と、ピデさんこと小林さんの記事(第58話)。
これらの組み合わせによって、初めて知る人にも内容が伝わると思います。
それに加え、僕自身の学びもここに書き留めておきます。
地域づくりファシリテーションという考えかた。
それはとても必要だと感じています、と川口さんは言ってくださいました。
僕は、川口さん自身が既にファシリテーションをかなり実践していると感じました。
もちろんリーダーとして、あらゆる取り組みを開拓してきた人です。
ですが、同時にファシリテーターの役割もこなしている印象を受けました。
東北と北海道でずっと暮らしていた川口さんが対馬に移住したのは2011年。
日本生態学会のメーリングリストに流れた求人情報。
それは、対馬の「島おこし協働隊」の募集案内でした。
一般的には「地域おこし協力隊」として知られる制度。
これがすべてのきっかけとなりました。
生物多様性保全から持続可能な地域社会を作るという任務。
元々、研究室にこもるのでなく、外に出て活動したいと考えていた川口さん。
募集案内に書かれた難題が心に火を付けたようです。
移住後は、島おこし実践塾(人材育成)や島っこ留学(小中学生の離島滞在プログラム)など様々な活動に携わり、また自ら立ち上げたりしてきました。
その後、2つの法人を立ち上げ、現在は対馬里山繋営塾で民泊を中心とする観光事業を主たる活動にしています。
しかし、リーダー役だけでなく、他の人や活動の力を高めることもしています。
今回の対話のなかから4つの印象的なエピソードを紹介します。
1つめは、ファシリテーションとして最大と思われる役割。
それが、民泊受け入れ家庭との協働ではないでしょうか。
ピデさんが注目した「地域資源のインタープリテーション」(第58話)。
対馬の素晴らしい地域資源を活かすこと。
そして、持続可能な環境や生活の価値を伝えていくこと。
その際、対馬グリーン・ブルーツーリズム協会が強い束となって売り出すこと。
地元住民である受け入れ家庭の人たちにとっては当たり前すぎる地域や暮らしの価値。
それを受け入れる側の地元住民自身が理解すること。
その価値への適正な対価を設定すること。
外から訪れる人は、その価値に喜んで対価を支払うつもりなのです。
個々の受け入れ家庭だけで考えると、価格設定もつい控えめになりがち。
そんな民泊受け入れ家庭に、広報素材を集めるために自ら訪問。
そこで、体験を自ら全力で楽しむ。
その姿を見てもらうことで、受け入れ側の人が価値に気付くこともあるようです。
コト消費なので、完成形を提供してあげる必要はありません。
下手でも、自分で打ったソバなら一生忘れない味になるはず。
訪問者が自ら暮らしかたを体験することに価値があります。
こうしたことを受け入れ家庭と共に考える役割。
それを協会事務局として果たしているようです。
このように、見えにくい価値にしっかり光を当てること。
それは大切なファシリテーションで、特に発信の設えと解釈できそうです。
つまり、外からの訪問者に対してだけでなく、むしろ地元の人たちへの側面支援。
僕はそこに川口さんたちの活動の意義を強く感じました。
2つめは、学術研究の経験といまの活動の関係性。
バリバリの生態学者だった川口さんに僕からあえて質問してみました。
研究経験と今の活動はつながっていますか?
川口さんの答えは明快でした。
「まだ見ぬことを発見するプロセスが研究。
既に他の人たちによってなされてきたことを調べて整理。
そして、まだ分かっていないことをこれから調べていく。
そのプロセスはいま対馬での自分の活動も同じ。
だから、博士号を取ってよかったと思っています。」
この川口さんの言葉を聞いて、本当にすっきりしました。
一見まったく違う経験やスキル。
それが、確実につながっています。
というか、ご自身が確実につなげているのでしょう。
3つめは、志多留(したる)という集落への思いです。
民泊は対馬全体に広くまたがる事業。
でも、自分が住む志多留を活かし、志多留のためになることもしたい。
学童保育と自然学校。
この組み合わせを志多留でなんとか形にしたい。
自分が欲しい育児環境を志多留で作る。
それが、これからの最大の目標とのことです。
志多留で以前実施した離島留学。
島外から来た親子がホームステイするプログラム。
これは、労力などの点で負担が大きすぎて3年で閉じることになりました。
でも、新たなプログラムを志多留で始めたいと川口さんは言います。
「わたし、あきらめが悪いので。」
4つめは、今回の対話のなかで僕が唸らされた場面。
それをご紹介したいと思います。
ツシマヤマネコの数が減った要因は何か?
スライドを見せながら川口さんは僕らに問いかけます。
選択肢は3つ。
その1つに「餌をあげていた人がいなくなった」とありました。
ヤマネコは野生。
餌付けされていたわけじゃないでしょ?
第一印象として、そう思いました。
ところが、この選択肢も正解のひとつなのでした。
そして、それは飼い猫への餌やりとは確かに違いました。
とても深い意味だったのです。
それを数分後に川口さんの解説から学ぶことになります。
ネタバレにならないよう、ここまででやめておきます。
ぜひ現地で直接聞いて唸っていただきたいです。
いずれにしても、この問いと答えは絶妙の仕掛けなのでした。
「一本取られた!」というのはまさにこのときの僕の感想です。
観光と教育が事業の柱。
どちらにおいても、珍しいヤマネコを見せるのがガイドの力量ではない。
そう川口さんは言います。
ヤマネコをきっかけにして、地域のことを知ってもらう。
それが本当の力量だということを実演していただきました。
対馬だけでなく、島外の人にとっても自分が暮らす地域とのつながりを理解できます。
さらに、アジアや地球全体とのつながりも考える機会となります。
遠くのことのように感じる「持続可能性」が身近な課題になるのです。
こうした仕掛けにも、ファシリテーションの技がたくさん隠れています。
とても勉強になりました。
写真:川口さん(中央)との対話風景
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