第62話 対馬での学び その7

haruデザインこと納谷さんのグラレコ(第60話)と、ピデさんこと小林さんの文章(第61話)で紹介した吉野さんのお話。

それに加え、僕が印象に残ったことを本号で書き留めておきたいと思います。


まず、「触媒(カタリスト)」という役割。

MITという組織(そして吉野さん自身)は、ものごとや人をつなぐ役割を強調します。

そして、単につなぐだけでなく、自分が関わることで化学反応を促す。

そこに触媒としての役割があるというのです。


そのひとつの例が、そう介(そうすけ)プロジェクトです。


対馬沿岸では、イスズミやアイゴなど魚が海藻を食べ尽くすことによる磯焼けが深刻。

そこで、対馬市水産課からの委託調査をし、ヒアリングするなかで丸徳水産という水産加工会社につながりました。


猫もまたぐと言われるほど臭みの強いイスズミ。

同じく臭みがあるうえに毒針を持ち厄介なアイゴ。

これらの魚が定置網にかかっても、従来は迷惑がられるだけ。

食品としての価値はありませんでした。


そこで、臭みが出ない揚げ物などの調理法で商品開発。

水揚げから丸徳水産の加工場までの搬入も、元々ある不定期の島内運送ルートを活用。

荷台のすき間を利用して運んでもらうことができました。

こうして、いつでも全島から未利用魚を新鮮なうちに一次加工できる仕組みを作りました。


島内の学校給食で提供されたり、Fish-1グランプリなどイベントで受賞したりと成果も上げています。

食べ物としておいしいことに加えて、物語というスパイスが効いているのでしょう。

それがまた新たな関心を呼び、プロジェクトはどんどん発展を続けているそうです。


吉野さんが関わることで、漁業者、運送業者、加工・販売業者、そして消費者まで、広く強いつながりが生まれました。

そして、関わる人すべてにメリットがあります。

誰も損をしていません(採られてしまった魚たち自身を除き?)。

これぞ、触媒としての真骨頂。

ファシリテーションの文脈で解釈するなら、体制と発信の設えを中心とした地域づくりの側面支援。

そのように言えそうです。


これと別に、対馬の森林を核とした地域づくりにも吉野さんたちは挑み始めています。

使いながら守るという伝統的な里山の術を、今の時代に合わせて再構築。

その実施体制の設えにも吉野さんの知識とスキルがフル活用されています。


元は生態学者だった吉野さん。

川口さんのときと同じ質問を投げてみました。

研究経験と今の活動は関係するのでしょうか?


「進化生態学もコウモリの研究もいまはしていません。

でも、課題を見つけ、仮説を立て、検証していくこと。

いまやっていることも研究と同じこと。

論文を書くか書かないかの違いだけだと思います。

ポンチ絵を使ったり、理論的に伝えるスキルも研究経験のおかげ。

それに加え、環境省やコンサルティング会社での勤務経験も今につながっています。」


以上が吉野さんの答えです。

川口さんのときと同じく、明快な言葉でした。

確かに、吉野さんが示す概念や実施体制のスライドの完成度が高いことが印象的でした。


一方で、こんなことも吉野さんは言いました。


「僕の説明はつい長くなりがち。

キャッチコピーのように簡潔に伝わりやすく表現できたらよいのでしょうけど。」


なるほど。

研究では、必要な情報を省くと不正確になってしまいます。

だから、正確さを優先するあまりつい情報量が多くなりがち。

コピーライターのような才能のある人が吉野さんの近くにいると最強かもしれません。

(発信の設えのファシリテーション?)


視覚的な発信ということでは、MITには強力な人がいます。

デザイナーの吉野由起子さんです。

MITで販売する商品のデザインも由起子さんによるものです。

対馬の自然や文化の価値を視覚的に伝える発信の設えの達人といえそうです。


自分たちで稼ぐことが簡単ではない公益的な事業。

そのなかで、しっかり対価を得られることの意味も大きいはずです。

そのお金の大部分は、地元や補助金でなく、島外の関係人口による消費です。

喜んでお金を払う人たちがいて、それを地域で受け入れて分配する形です。


また、環境教育という未来への投資。

自然環境に配慮した農業への側面支援。

そうした活動に注力する人材もMITにはいます。

こうしたチームが、地域づくりファシリテーター集団として機能していることがよく分かりました。



写真(上):吉野さん(左)との対話風景



写真(上):「自然と人のくらしをつなぐ 佐護ツシマヤマネコ米」のパッケージ。

吉野由紀子さんのデザイン。力強い線が印象的。

環境に配慮した稲作への取り組みにもMITが深く関わっている。

その価値をデザインを通じて消費者に発信している。

後日、お米を炊いて食べてみたら、本当に美味でした!



写真(上):サステナブルショップMITで購入した「べにふうき茶」。

対馬で紅茶が作られていたとは!

馴染みに生産者と組んで、親しみやすく、洗練されたデザインで販売。

飲んでみると、すっきりさわやかでおいしい紅茶でした。


地域づくりファシリテーション研究所

地域づくりの活動それぞれにリーダーが必要。でも、リーダーだけいればうまくいくとは限らない。側面支援も大切。この側面支援を「地域づくりファシリテーション」と称して、その役割を考えていきたい。研究所と名乗っているが、とりあえず仲間たちと共にこじんまりと議論し、実践していくなかでの気付きを記録していく。

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