第64話 対馬での学び その9
(本号はピデさんこと小林秀輝さん執筆の記事です。なお、所属等は2023年3月時点の情報です)
私は学生時代に約5年間対馬で調査研究を行いましたが、その際に対馬市役所の皆さんには大変お世話になりました。特にSDGs推進室の前田剛さんには、細やかなサポートをいただきました。同じSDGs推進室の崔さんには、対馬での調査時、宿泊場所手配等でお世話になりました。今回は対馬市役所を訪ね、崔春海さんに久々に再会し、お話を伺うことができました。
崔さんは現在、対馬市しまづくり推進部政策企画課SDGs推進室に所属していて、対馬市の先進的な域学連携事業の推進に携わっていらっしゃいます。今回は、対馬市の域学連携事業を中心にお話を伺いました。
結論から先に述べると、今回お話を聞いて一番印象に残ったのは、この分野の対馬市の施策が「域学連携」から「人材育成」へと発展したという点でした。大学のない対馬では、これまで様々な大学との連携によって域学連携事業を進めてきました。学生のニーズに合わせ、島おこし実践塾や学生実習等、複数のメニューを提供していました。しかし、コロナの影響もあって、学生が島内に入り活発に地域おこし活動や調査研究活動を行うことが難しくなった時期があったようです。そこで対馬市は対馬グローカル大学というオンラインでの取り組みを充実させていきます。対馬グローカル大学では、web講義やゼミへの参加を通して、自らの問題意識を鍛え上げ、課題解決に資する能力を受講生が身に着けることができるように設計されていると感じました。対馬グローカル大学の特記すべき点は、オンラインツールを駆使して行政が地域づくりのためのプラットフォームを設けている点、そして何よりこれまでの域学連携事業を発展させ、島外の外部人材だけに頼るのではなく、島内の人材育成にシフトした点にあると私は考えています。これまで培ってきたノウハウを活かして、市民を対象に人材育成を目指す姿勢は、これまでの域学連携事業と同様に先進的な取り組みとして全国から注目されています。また、以前から継続している対馬学フォーラムは、地元への研究成果の還元の場となっており、市民自らが調査研究を行う土壌の醸成に寄与していると言って良いでしょう。
一方で、こうした事業を運営する事務局として、例えば対馬グローカル大学の受講要件や連絡ツールといった部分で、課題もあることをお伺いしました。毎年度課題を抽出し、それをクリアしていくことができているのは、運営側の先生方と行政とがしっかりと連携できているからだと思います。そして何より熱意をもった前田さんや崔さんのような行政マンの存在がとても大きいのは言うまでもありません。
域学連携は、今後の地域活性化を考える上でキーになる概念であり、全国各地で同様の取り組みが試みられています。今後も地域づくりに資する域学連携事業の先進的取り組みとして、対馬の様々な施策に注目していきたいと思います。
写真:崔さん(左)との対話風景
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