第65話 対馬での学び その10

対馬市役所のSDGs推進室主事である崔さんからの僕の学びを記しておきたいと思います。

行政の人にはよくあることですが、決して自分の手柄として語りません。

担当業務をこなしているだけ、という感じで淡々と話してくれます。

その時点で既に側面支援者に徹しているわけです。

そこにレフ版で光を当てたい。

それがファシリテーション研究のマニアックな醍醐味かもしれません。


2022年度においては、対馬グローカル大学が崔さんの担当業務の中心とのことです。

この講座にファシリテーションの要素があふれていること。

それは、見聞きするあらゆる場面から理解できました。


崔さんがおこなう側面支援は?

この問いに、少し考えてから崔さんは答えました。

「例えば、食ゼミでお菓子の商品開発に取り組むなかで、塩づくりの現場を見学することになりました。現地に行けない人も学べるように動画を撮影・編集しました。」


なるほど。

コロナ禍ということもあり、対面だけでなくオンラインも組み合わせたハイブリッド形式。

対面でなくても学べる形を設えるファシリテーションですね。


もう一つ。

今回の対話の冒頭でピデさんが質問してくれて知ったこと。

それは、対馬では市役所職員が「地域マネージャー」として特定の地区を支援する仕組みがあるということです。

崔さんは対馬南部の瀬という地区を担当しています。

瀬では河川に鯉が増えすぎて困っていました。

水草など食べ尽くしてしまううえに糞による水質汚濁も進行していたのです。

瀬地区の人たちが崔さんに相談しました。


そのとき崔さんの頭に浮かんだのが川口幹子さん。

本シリーズでも川口さんのことを紹介しました(第57~59話)。

元々、魚の進化を研究していた生態学者です。

川口さんの紹介で外部の専門家に調査してもらうことになりました。

その結果は2019年3月に地区の人たちに報告されました。

崔さんは、地域課題と、それに関する知見を持つ人をつなぐ役割を担いました。


自身が大学3年のときに対馬と出会った崔さん。

公務員志望で、現場体験を希望していました。

指導教員の紹介で「島おこし実践塾」に参加。

8月に1週間、志多留で合宿があり、12月には対馬学フォーラムでの成果報告。


4年生になった翌年度は対馬市学術研究等奨励補助金を獲得。

(現在の制度名は対馬市SDGs研究奨励補助金)

廃校舎の利活用をテーマに研究をおこないました。

さらに、対馬市が募集する学生実習により、「夏休み寺子屋」という活動にも参加しました。


域学連携からSDGsに至る対馬での一連の取り組み。

崔さんは、それを学びに来て、結果として移住して運営側になったのです。

行政というと個人が前面に出にくいですが、働いているのは一人ひとりの人間。

このような経緯と思いを持つ人が行政のなかで担当しているのは強みだと感じました。


川口幹子さんや吉野元さんも、崔さんからご紹介いただいて今回対話できました。

僕ら奥能登チームを、対馬での大きな取り組みとつないでくださいました。

地域側にこのような「親切な門番」がいるのは強みですね。

それを改めて感じる対話となりました。



写真:対馬市役所

地域づくりファシリテーション研究所

地域づくりの活動それぞれにリーダーが必要。でも、リーダーだけいればうまくいくとは限らない。側面支援も大切。この側面支援を「地域づくりファシリテーション」と称して、その役割を考えていきたい。研究所と名乗っているが、とりあえず仲間たちと共にこじんまりと議論し、実践していくなかでの気付きを記録していく。

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