第7話 「風の人」と「土の人」 その1

地域づくりファシリテーター研究会の2021年4月の寄合。

そこに僕の旧知の仲間をオンラインのゲスト講師として招きました。


その人は高橋敬子さん。

環境教育の実践と研究を両方こなす専門家です。

大学、研究機関、公益法人などでキャリアを積み、最近では個人事業主として起業。

多方面で活躍中です。


高橋さんの個人事業における屋号は 「未来のためのESDデザイン研究所」。

ESDはEducation for Sustainable Developmentの略。

「持続可能な開発のための教育」の意味です。


海外と日本の気候変動教育プログラムを研究し、

近年では、ドイツの研究者とともに

「気候変動のミステリー」という 手法を開発・活用しています。


このミステリーがとてもよくできているらしいのです。

ぜひ一度、僕も参加者として体験してみたいです。


しかし、僕らの寄合の主題は「地域づくり」。

それに合う話題を中心にお話いただくことにしました。


高橋さんの地域づくりのフィールドは東京都豊島区の西池袋という地域。


高橋さん自身は西池袋の住民ではありません。

所属大学がこの地域にあり、当時大学院生だった高橋さんが、

仲間を募って2006年から活動を始めました。


2007年には活動母体としてNPO風土-Kazetsuchi-を立ち上げました。

この名称に今回の主題が既に表現されています。


「風の人」(外から訪れる人)と「土の人」(地元の人)。

両者が手を携えて地域の魅力を(再)発見し、発信していく。

「地元学」ではその大切さが強調されます。

高橋さんは「風の人」として、

西池袋の持続可能な地域づくりに取り組むことにしたのです。


最終的には「土の人」である地域の人たちが

自ら主体的に持続可能な地域づくりに取り組むようになるのが目標。

しかし、最終目標に至る前にいくつかの段階が必要。

高橋さんはそう考え、段階的に活動することにしました。

現在までの15年にわたる道のりはこうして始まったのです。


まず、高橋さんら風の人たちが、土の人たちから信頼されること。

それを最初の段階の目標としました。

地域の様々な活動に学生が参加しながら西池袋のエコマップを作り、

そのマップを見ながら語り合うエコカフェを開催しました。


初年度から順調に成果が生まれます。

でも、事はそう簡単ではありません。

参加する学生は卒業してどんどん入れ替わっていきます。

信頼関係を作る段階に終わりはありません。

現在に至るまでそれは続いているそうです。


次に、高橋さんの元々の専門である環境教育です。

環境の関心のある人は放っておいても参加します。

関心のない人たちにどう働きかければよいのか?

それが高橋さんの問題意識でした。


そこで、「環境」を最初から強調するのでなく、

地域の魅力に注目した活動をすることにしました。


地域の人たちが案内役を務めて学生が「まちあるき」。

西池袋の祭りについてじっくり話を聞いてみる。

祭りの本番では、御輿をかつぐ体験もさせてもらいました。

自治体と協力した「エコライフ講座」でも地域の人たちが案内役。


こうした活動の成果として「西池袋おさんぽマップ」が完成。

2年目で既にここまで達成しているのがすごいです。


「環境」や「持続可能」という言葉や考え方は、

必ずしも地域の人たちに馴染みがあるとは限りません。

だからこそ進め方には工夫が必要。


風の人が押し付けては逆効果。

むしろ、土の人が説明者になるところに、

高橋さんのさりげなく上質な工夫が見えます。

これこそ地域づくりファシリテーションと感じます。


その後、地元学の考えを更に強く採り入れて

「風土(かぜつち)かふぇ」シリーズを開催。

地域イベントにも出展。

松ぼっくりでみみずくのクラフトを作る教室など、

地域の人たちが主役になる企画も生まれました。 


ちなみに「イケブクロ」からの「フクロウ」つながりのためか、

この地域ではフクロウやミミズクが大切な存在だそうです。

「すすきみみずく」という伝統玩具もあります。

これは、ススキの穂を束ねてみみずくの形にするもの。

健やかな子が育つことを願うお守りで、鬼子母神にちなんだものとのこと。


さて、西池袋での地道な活動の積み重ねの結果、

次第に「環境」や「持続可能性」が無理なくテーマとして位置づけられ、

より多くの人たちが活動に参加するようになりました。


でも、高橋さんのお話はここで終わりません。

苦労談も含む「その後」が続きます。

それは次号のお楽しみ。 


ぽーちゃんがこの寄合のグラフィックレコーディングを実践!

これはその前半部分です。

春らしく華やかな桜色を使いました。 

地域づくりファシリテーション研究所

地域づくりの活動それぞれにリーダーが必要。でも、リーダーだけいればうまくいくとは限らない。側面支援も大切。この側面支援を「地域づくりファシリテーション」と称して、その役割を考えていきたい。研究所と名乗っているが、とりあえず仲間たちと共にこじんまりと議論し、実践していくなかでの気付きを記録していく。

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