第8話 「風の人」と「土の人」 その2

高橋敬子さんから聞く西池袋地域のお話。


前回は、外から訪れる「風の人」である高橋さんらが、

地元に住む「土の人」と活動を積み重ねて信頼関係を強める過程についてでした。

環境や持続可能性の文脈が自然な流れで加わっていく工夫がありました。


本号はその続きです。


西池袋の地域づくり活動に大きな転機が訪れます。

それは2014年のこと。

多くの主体が集まってのプラットフォーム。

そのようなNPOが新たに発足したのです。


「としまちプロジェクト運営協議会」と称するこのNPOには、

地元の町会、大学の研究所、民間企業、そして既存の3つのNPOが参加。

高橋さんのNPO風土-Kazetsuchi-もその一つです。


協議会が発足して間もない頃は、活動方針を決めていくため、

ワークショップによる議論を重ねたそうです。

高橋さんがファシリテーターとなって、SWOT分析などの手法も活用しました。


「あの頃は私自身が苦しかった。」

高橋さんはそう振り返ります。


毎回、ワークショップの設計を事前に固め、会議当日を迎える。

時間配分や手法などの「枠」に議論を収めなくてはならない。


しかしあるとき高橋さんは気付いたそうです。

地域の人たちが本当に望んでいるのはこれではない。

あまり楽しい雰囲気でないし、そもそも自分自身が苦しく感じている。

「やらなければいけない」という窮屈なオーラが自分から出てしまう。

そして、そのオーラは地域の人たちの楽しさ、そして意欲を奪ってしまう。

これでは悪循環。


そこで、高橋さんは決断します。

ワークショップ的な設えを一切なくすことにしました。


会合は、地域の人たちが集まって自由に話す場とする。

結論が出なくてもよい。

同じ話が繰り返されることがあっても別に構わない。

言いたいことを最後まで言えれば参加者は気持ちよく帰れます。

それで十分。

そのように考えを切り替えることにしたのです。


進め方を変えると、地域の人たちの表情が明るくなりました。

急いで結論を求めるのでなく、じっくり話を聞き合う。

急がば回れのやり方です。


高橋さん自身の気持ちも楽になりました。

なので、発するオーラも明るく楽しいものになります。


活動内容についても、地域の人たちが自ら提案。

やりたいことをやりたい人が企画します。

なので、当然、地域の人たちが主体的に取り組みます。


この好循環を表す象徴的な場面が最近ありました。

2021年3月に開催されたオンラインの発表会。

豊島区における様々な社会貢献活動が披露される場です。

コロナ禍のため、前年から発表を動画配信する方式となっています。


としまちプロジェクト運営協議会の発表は、

手作りの模造紙を使っての活動紹介でした。

文字や写真が切り貼りされた模造紙は温かみのある手作りの作品。

よく見ると、どんぐりや、折り紙の花など手作りの飾りも豊富。

飛び出す絵本のように、とっても華やかな3Dなのでした。


「SDGs」とか「生物多様性」というような用語も ごく自然に散りばめられています。

風の人たちと共に活動を重ねてきた結果、

これらはすっかり土の人たち自身の言葉にもなっているのです。


説明するのは土の人。

その横でゆらゆら揺れる3羽の「すすみみずく」。

これも町会の人が手作りし、自分の手で揺らすことで発表を彩っているのです。

一度動画を見たら忘れません!

https://www.youtube.com/watch?v=sXxcpCfVAcI


2006年からの15年にわたる物語を聞いてから動画を見ると、

ここに至るまでの長い道のりが想像されます。


持続可能な西池袋は一日にしてならず。

とても学びの多い寄合となりました。


 ぽーちゃんによるグラフィックレコーディング(後半部分)。

上の見出しと右の講師紹介は前半のまま残し、それ以外は新たな内容。

このような要素の使い分けに工夫があるようです。

地域づくりファシリテーション研究所

地域づくりの活動それぞれにリーダーが必要。でも、リーダーだけいればうまくいくとは限らない。側面支援も大切。この側面支援を「地域づくりファシリテーション」と称して、その役割を考えていきたい。研究所と名乗っているが、とりあえず仲間たちと共にこじんまりと議論し、実践していくなかでの気付きを記録していく。

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