第9話 「風の人」と「土の人」 その3
東京都豊島区の西池袋地域の地域づくり活動。
「風の人」として15年にわたり関わってきた高橋敬子さん。
その話を前回まで2回にわたって紹介しました。
今回は最後の「おまけ」編です。
高橋さんがこっそり教えてくれたコツを共有しましょう。
※西池袋の人たちがお読みになったらネタばれみたいですみません。
たぶんもう十分に理解し合いながら協働していらっしゃるので
まったく影響ないとは思いますが…。
街中に植物を増やす活動を計画したときのこと。
地域の人たちの会話には、外来種の植物も登場しています。
そのとき高橋さんのさりげないファシリテーションが発揮されました。
高橋さんが「外来種でなく在来種を!」と言うのではありません。
「こんどみんなで専門家の話を聞いてみましょうか?」
そう呼びかけ、専門家に説明してもらうのだそうです。
それを聞いてから改めて計画のための議論。
「在来種を植えよう」と決めるのは地域の人たち自身になります。
誰かに答えを与えられるのでなく、
有用な情報を集めたうえで、最後に決めるのは自分たち。
そのような「プロセスの設え」になっているのです。
先ほど僕は「コツ」と言いました。
でも、実はこれは小手先の技法などでなく、
風の人として地域に関わる際の姿勢の表れですね。
高橋さんはそれを教えてくれたのです。
「でも、それではまるで誘導じゃないか!
しかも、そうと見えないように誘導している。
まるで『ステルス誘導』だ! けしからん!」
…と感じる人もいるかもしれません。
確かにそこにも一理あります。
でも、ファシリテーターとは元々無色透明の存在ではありません。
独自の価値観を持つ一人の人間です。
自分の価値観を消し去ることはできないし、そうする必要もありません。
自分のなかにある価値観、あるいは固定観念や偏り。
それを把握し、そのうえでファシリテーションをおこなえばよい。
このような考え方を以前聞いたとき、僕の気は楽になりました。
ただし、ファシリテーターが私利私欲のために誘導してはもちろんダメ。
相手の人たちが主体であり、意思決定者であること。
大きな目的から逸れなければ大きな間違いはないはずです。
高橋さんの場合も、外来種と在来種という「物事の見方」を
土の人が持つ機会をさりげなく設えただけです。
結論を誘導するのとは決定的に大きな違いがあります。
さて、今回の寄合では時間の制約もあり 高橋さんのお話は要約版でした。
でも、どの部分を切り取っても、すべてが奥深いものでした。
参加したメンバーは大いに刺激をいただきました。
最後の最後に、個人的に僕が得た貴重な今回の学びを共有します。
寄合に先立って僕は個別に高橋さんとオンラインで打ち合わせをしました。
また、前後にメールのやり取りも重ねました。
恐らく、この研究会のチームビルディングや運営方法について、
言葉の端々から僕の悩みが滲み出てしまっていたのでしょう。
としまちプロジェクト運営協議会の進め方の変更。
「やらなければいけない」という苦しい義務感との決別。
それを巡る高橋さん自身の体験談。
その話は僕の気持ちをとても楽にしてくれました。
そのとき僕が必要としていた「物事の見方」を、
高橋さんは瞬時に見抜き、さりげなく伝えてくれたのです。
しかも、そうとは言わずに。
高橋さんのさりげなく、そして行き届いたファシリテーション。
それによって僕は救われたのです。
高橋さんの真似はとてもできません。
でも、そのすごさは理解できているつもり。
まずはそれだけでも十分に幸せなことだと感じています。
追伸 目をつぶるとすすきみみずくが今でも浮かびます。
相変わらず3羽仲良く並んでゆらゆら揺れているのです。
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