第19話 枠組みを示す その1

会議や研修におけるファシリテーション。

その役割のひとつに枠組みの提示があります。

なので、事前の設計段階で、目的に合う枠組みをファシリテーターは考えます。


でも、時にアドリブも必要。

そんなアドリブの例を聞いたことがあります。

それは、僕が勝手に師匠と仰ぐファシリテーターHさんの体験談。


まちづくりの方針を地域の人たちが議論するワークショップ・シリーズ。

毎回、参加者が完全に一致するわけではありません。

なので、前回までの結果を共有し、議論を積み上げていく。

ここで工夫しないと、2歩進んで3歩下がる、なんてことになりかねません。

まずそれだけでもファシリテーションが大変そうだと感じました。


そして、最終回の最後。

それまでの議論を集約して、標語を作ることになりました。

たくさんの有益な意見。

それらをまとめ、簡潔で明快な言葉で表現するという大変な作業です。


参加者の議論は熱を帯び、終了予定時刻を超過。

でも参加者の意欲は高く、自主的に残って議論を続けます。

議論の質もよい。

でも、出口が見えてこない。

参加者の表情に疲れがにじみ出る頃。


そんな袋小路の状況だったときに起こったファシリテーション。

議論に寄り添っていたファシリテーターのHさんにそれは降ってきました。

「それ」とは、議論の結果を標語に落とし込むための枠組みです。

枠組み。英語だとフレームワークと言われます。

文字通り、外枠や支柱など基本的な造りです。

中身は当事者たちが自分で決めて、埋め込んでいく。

それを円滑に促すための手段として、枠組みをファシリテーターが示す。

これぞ、プロセスの設えの真髄の一例かもしれません。


Hさんが言うには、その枠組みのアイデアは本当に「降ってきた」そうです。

上から右脳にズドンと落ちてきて、頭のなかで左脳に移る。

そして、言語化されて、口から語られた。

その状況がHさんの目に見えたそうです。


 まるで超常現象のようですが、Hさんの話しぶりは真剣。

戯言でも嘘でもないらしいのです。


プロのファシリテーターとして、日頃から自分自身も含む場の状況を俯瞰。

(Hさんによると4つのカメラで状況を見るそうです…)


こうしたスキルの到達点に「降ってくる(のが見える)」境地があるのでしょう。

僕にはとても難しそうです。


でも、この話から教訓を学ぶことはできます。

日頃から、目的に応じた様々な枠組みを学び、使いながら身に付けておく。

引き出しの多さという経験値が、とっさの場面での発想に生きる。

そういうことなのでしょう。


先ほどのHさんの実例では、降ってきたその枠組みを使うやいなや短時間で標語が作られていったそうです。

議論の蓄積をもとにした内容が盛り込まれたこと。

そして、確かな協働の産物であること。

なので、参加者の満足度も高かったはず。


誰かから与えられた(別の意味で「降ってきた」?)標語ではありません。

自分たち自身で作った標語です。

地域で活発に動く人たちが「自分ごと」として使う標語。

なので、その人たちから周囲に波紋のように広がっていくことも期待できます。


このようなプロセスの設えができたら、ファシリテーター冥利に尽きそうです。

参加者は内容のほうに夢中になっているので、枠組みの効力に気付かないかもしれない。

でも、それくらいのほうが黒子としてはむしろ役目をちゃんと果たしたことになるのでしょう。


最後に余談ですが、Hさんのワークショップの実施主体は自治体でした。

「落としどころ」の見えない議論からの目標づくり。

それを、白いキャンバスのまま行政の外に差し出す勇気。

行政の内部で決めてしまうほうが、時間も労力も遥かに少なくて済みます。

あえて大変な道を選び、参加型での意思決定方式を導入したこと。

その英断に拍手を送りたいです。

それもこれも、Hさんとのこれまでの協働実績という裏付けがあったからでしょう。


そのときどきの目的に合った枠組みを選んで示すこと。

そんなファシリテーションの技能を高めていきたいものです。


地域づくりファシリテーション研究所

地域づくりの活動それぞれにリーダーが必要。でも、リーダーだけいればうまくいくとは限らない。側面支援も大切。この側面支援を「地域づくりファシリテーション」と称して、その役割を考えていきたい。研究所と名乗っているが、とりあえず仲間たちと共にこじんまりと議論し、実践していくなかでの気付きを記録していく。

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