第20話 枠組みを示す その2
前回お話した「枠組みを示す」というファシリテーションの続きです。
これまで僕は、研修や会議など、ある特定の場でのことを主に考えていました。
しかし、実はもっと別の、長い期間にわたる場面にも同じことが言えそうです。
そのことに最近、ふと気付きました。
いずれも過去において僕自身がやったことの例です。
手前味噌を承知のうえで共有します。
特定の人や組織を批判するために述べるのではありません。
なので、「昔々ある所に…」という感じでお読みいただければ幸いです。
また、予め断っておきますが、それほど目覚ましい事例ではありません。
それでも、考えるための小さなヒントの一つにはなるかもしれません。
ある職場でのこと。
そこでは僕を含め数名の研究者が働いていました。
いくつか業務があるなかの一つが研究でした。
研究組織としての名称を持っており、取り組むべき研究の大テーマが複数設定されていました。
僕自身、求人の際の情報のとおり、「研究機関で研究をおこなうこと」が第一の中心業務のつもりで着任しました。
ところが、いざ働き始めると、どうやら実態が少し違うようでした。
第一に、この組織が「研究機関として」外部からほとんど認知されていませんでした。
研究以外の業務のほうが目立つので、専らそのための組織だと認識されているようでした。
念のため申しますが、組織としての研究実績報告書はきちんと作られていました。
惜しいのは、それを見るのがごく限られた関係者のみだということでした。
予算を使ったことに対する内部的な説明責任は果たされていますが、対外的な研究発信に手が回っていない印象でした。
これは非常にもったいないことだと感じました。
第二に、組織内でも研究者がお互いの研究内容を知る機会が少ないようでした。
不定期のセミナーのような会がたまに開催されることは過去にもあったそうです。
それが仕組みとまではなっておらず、日常的なやり取りは他の業務に関することが大半でした。
各人のざっくりとした研究分野などはお互いに知っています。
しかし、現在、具体的にどのような研究をしているのか?
そのような詳しい情報の相互共有がなされていないようでした。
これももったいないことだと感じました。
いずれも、研究以外の業務量が多いことが根本原因のようでした。
「分かっているけど手が回らない」という状況に見えました。
以上の課題に対して、自分にできることはないか?
僕は考えてみました。
まず内部の共有促進なら、比較的簡単に始められそうです。
僕は、原則月例の勉強会を提案してみました。
そして、同僚たちが好意的に賛同してくれたので実施しました。
実施し始めてみると、お互いの研究を知る機会が生まれ、効果は明らかでした。
実は、この勉強会の運営の仕方において、ファシリテーションの実験を僕はいくつか詰め込んでみました。
今回はそこに深入りしないことにします。
ここで言いたいのは、この勉強会そのものが一つの枠組みなのだ、ということ(に最近気づいたこと)です。
次にやったこと。
それは、各人が取り組んでいる研究を1枚の様式で提出することでした。
勉強会と同様に、個別研究の概要を共有する目的もあります。
それだけでなく、組織が抱える大テーマとどう結びつくのか?
どこまで完了して、この先どう進める計画なのか?予算は?…などなど。
こうした情報の整理のための枠組みでもありました。
こうしたことはそれぞれの人の頭の中に漠然とあることでしょう。
でも、きちんと文字で記述すること。
そうすることによって、共有や発信に活かせる情報となります。
特に、「組織の大テーマとどう結びつくのか」に僕はこだわりました。
業務の一部として実施している研究である以上、組織の目標との関連付けは必須です。
それを自分自身で整理して、説明できる状態になっていることはとても大切。
そう考えての様式でした。
実際、記入・提出した人から「これによってしっかり整理できました」というコメントを後で聞きました。
記入されて集まった様式は、組織全体の研究成果報告書の補足資料として束ねました。
なので、説明責任をより明確に果たすことにもつながりました。
ただ、対外発信への積極的活用までは残念ながら至りませんでした。
その枠組みを作れなかったのは僕の力不足であり、反省点です。
さて、上記の例はどちらも、枠組みを示すファシリテーションの小さな実践例には違いないと思います。
そこからさらに僕の思考は展開します。
行政や民間の競争的研究資金の募集も同じことなのでした。
(規模はずっと大きいですが)
募集要項には目的、金額、締切などが明記されています。
そして、応募書類の様式があります。
応募者の立場から見ると、これらは窮屈な「制約」に見えることもあります。
でも、そもそも応募すること自体が、新たな可能性への挑戦です。
そして、様式や締切など枠組みが明確に存在するから応募しやすくなります。
これも、枠組みを示すファシリテーションだと思います。
反対に、応募するだけで疲れ果ててしまう枠組みもあります。
かなり昔、外国語能力の試験を何度も受けた時期があります。
留学するために必要だったからです。
しかし、この試験は応募手続きが非常に煩雑。
説明書を隅々まで読むだけでも骨が折れます。
試験そのものより応募手続きのほうがはるかに難しい。
応募者の視点からもっと簡略かつ分かりやすい枠組みにできるはず。
そんなことを思い出しました。
一般論として、こうした制度は募集側と応募側の協働のはず。
協働によって大きな目的を果たすのが大切です。
であれば、募集側が、応募側にとって親切な枠組みを作るほうが得策。
取り締まるより、促す枠組みです。
(もちろん不正を防ぐルールは必要ですが)
応募側も、様式や締切など募集側の指定を守ることは当然です。
枠組みがうまく運用すれば、相互の信頼にもとづく協働になります。
ちなみに、僕らのファシリテーション研究が受けているトヨタ財団の助成。
募集の枠組みには毎年度、工夫が満載されています。
しかも、要項や様式などハードウェアとしての枠組みだけではありません。
プログラム・オフィサーを中心とする側面支援のソフトウェアも充実しています。
これも、いずれぜひ深掘りしたい話題です。
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