第44話 佐渡での学び その2

佐渡では、トキの野生復帰という国を挙げた事業が続いています。

そして、トキを通じた地域の活動もおこなわれてきました。


今回、板垣徹(いたがき とおる)さんからお話を聞くことができました。

板垣さんは生粋の佐渡市民で、トキの野生復帰をめぐる地域の中心人物です。

色々な役職を務めていらっしゃいますが、今回、特に関連するのは次の3つです。


潟上(かたかみ)水辺の会 代表世話人

トキの水辺づくり協議会 会長

合同会社トキの会 代表社員


以下、聞いたお話の要点です。


協議会に至る経緯

・以前、新潟県の天王川自然再生事業において、外部専門家がファシリテーターとなって、自由参加の座談会という形で議論を続けた(注:次の報告書によると2008~10年に計10回開催。https://www.jst.go.jp/ristex/funding/files/H25houkoku_Kuwako.pdf)。

・その結果を踏まえ、事業の基本構想ができた。ただ、行政による工事や最低限の維持管理(治水や年1回の草刈りなど)だけでは不十分。餌場の維持管理には実行部隊が必要。自分が所属する「潟上 水辺の会」が維持管理を担当できるか打診を受けた。しかし、会員の高齢化などもあり、新たな事業に取り組むことは難しい。

・つまり、座談会方式は、意見は集めやすいが、実行部隊を作ることができないという難点があることが分かった。

・この教訓をもとに、固定メンバーで議論すべきと提案。県も同意し、座談会の下に位置付ける形でワーキング・グループを設立。潟上 水辺の会、佐渡生きもの語り研究所、トキどき応援団、新穂エコロジーチーム(新穂の建設業者グループ)、生椿(はえつばき)の自然を守る会の5団体で始めた。

・課題として2項目が出た。1つは資金確保。もう1つはボランティア受け入れ体制の整備。県の支援で視察に行くなど活動を重ねた。

・そして、サントリー世界愛鳥基金の助成に申請。前述のワーキング・グループを基盤として、この申請のために2017年に作った組織がトキの水辺づくり協議会という任意団体。助成獲得後は、助成金の使い方と共同作業の内容を協議会で検討している。

・サントリー世界愛鳥基金への申請では、6年間助成を受けたあとに自立することとしていた。現在5年目で、今後の方針検討中。

・潟上のみでなく佐渡の他地域の団体にも途中から加入してもらうなど活動対象範囲の拡大を図った。一方、共通のビジョンについての議論がこれまで不足していた。

・そこで、協議会としてのビジョンづくりの議論を開始予定。加入する各団体の長からなる役員会で議論する前に、コアメンバーでたたき台を作り始めているところ。たたき台ができた後の本番の議論では新潟大学の豊田さんにファシリテーターを依頼予定。


拠点施設の活用と指定管理

・ホテル廃業により、新穂村(当時)が施設を買い取りトキ交流会館となった。トキに関する活動で人が集まる拠点とするのが目的。自分としては当時、夢みたいなことだと思った。

・里地ネットワークという活動を通じた座談会の呼び掛けがあり、潟上 水辺の会にも声が掛かった。宿泊と会議ができる施設として運用する構想で、水辺の会に指定管理団体となるかどうかの打診もあった。しかし、水辺の会は県の事業の事務局でもあり指定管理団体には適さない。そこで、自分を含む有志6名が10万円ずつ出資して合同会社トキの会を設立し、指定管理団体となった。

・2022年3月まで2年半の第1期を経て、指定管理は現在5年間の第2期に入っている。コロナ禍で利用が少ないなどの問題はあったが、持続化給付金などの支援もあり、会社が指定管理を受けることは全体として経営改善に有効であることが分かった。

・佐渡市がSDGs未来都市に認定されたこともあり、トキ交流会館を今後、佐渡のSDGsの拠点にもしたい。学生を対象とする活動も活性化したい。県の事務所は島の西側の相川という地域にあるが、トキ交流会館がもう一つの県の事務局的な拠点となると理想。今後、それに向けた整備をしていきたい。


地元潟上集落の今後の展望

・元は農業集落で、地域に愛鳥家がいるわけでもなかった。地域の人たちもトキを実際に見たことがきっかけで、餌場の維持管理などに関わるようになった人が多い。

・年1回、集落の皆さんに呼び掛けて潟上未来会議というワークショップを開催するようになった。子供の遊び場を作ろうという提案が出て、空き地での遊び場づくりがはじまった。そこの空き家の雨漏りがひどいのでどうするか、などの課題も議論。

・そこで、潟上未来会議を一般社団法人化し、日本財団の助成に応募し採択された。これも3年間の助成期間終了後にどうするかが課題。資金がなくなったとしても、当初と同様にボランティア(無報酬)で実施することも可能(水辺の会は基本ボランティアで、子供たちの作業指導などは1回2000円で引き受けている)。しかし、助成で資金が潤沢になり一度いい目を見ると戻りにくい面もある。


佐渡における今後の展望

・佐渡における課題の一つに山林の整備がある。トキの個体数増加とともに営巣に適する林も増えていく必要あり。現状では、人里の屋敷林(杉林や松林)が営巣に用いられている(想定外の状況)。今後、山林の手入れが課題。持ち主は手入れをするつもりのない人が多い。

・現在は平野部にトキが集中。周辺部のビオトープづくりも課題。しかし周辺部は過疎化が進み難しい。

・放鳥して10年たち風化しつつある。トキの魅力は、理念より見た時の感動。その意味で、トキは増えたが、トキを見せることが十分にできていない。保護のため営巣地やねぐらなどの情報を出せないのは止むを得ないが。


トキを巡る全国交流への展望

・トキの生息数が500羽近くになり、生息域の拡大が課題。環境省が佐渡だけでなく全国的なトキの野生復帰のための里地づくり取組地域として、新たに石川県能登地域と島根県出雲地域を選定した。飼育施設のある長岡市を中心とする新潟県の本土地域は継続審議中(参考 https://www.env.go.jp/press/press_00336.html)。

・今後、全国とのつながりが課題。佐渡の今後の活動の軸になるかもしれない。全国の地域を結ぶ協議会を環境省が年内にも立ち上げる予定。しかし、公式な会議だけでは限界あり。民間主体の交流を作りたい。相互訪問など、現場での経験の交流が一番肝心。活動の刺激にもなる。

・トキツーリズムをきっかけとした交流も大切。大学生が田んぼでのボランティア作業に従事しながら学ぶモデルプログラムを東洋大経済学部と作ったが、コロナ禍になってしまい未実施。東洋大には国際経済学科などに中国の人も多いので中国からも人を呼ぶ構想もあった(注:以下参照 https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/130611.pdf 

https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/130603.pdf)。

・能登の地域団体(NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海)とは既に交流実績あり。何度も視察に来られた。ビオトープ整備などの実績もある。

・新潟県(本土)では、地域住民のトキへの思いが必ずしも強くない。また、佐渡では、元々、畦を強くするため除草剤を用いず草刈りをする農法が根付いていた。本土では除草剤を用いるのが一般的で、それを変えて餌場を整備していくのは簡単でない。状況を注視したい。


その他

・活動の成果をどう評価するかも課題。トキの個体数のように数値化できる成果もあれば、数値化されにくい成果もある。アンケートをやればデータを取れるが、有効性にはどうしても限界あり。トキの放鳥によって何がどのくらい変わったのか、大きな意味の変化を調べる必要あり。

・(北村が示した「餅つき」の比喩に関連して)佐渡では餅をこねる作業を「ええどり」(合い取り?)と言う。こね手の役割は大切。

・以前、豊田さんが動画を見せてくれた(注:Derek SiversのHow to start a movementと題するTEDトーク。https://www.ted.com/talks/derek_sivers_how_to_start_a_movement?subtitle=ja)。それを見た仲間が「板垣さんというバカが裸踊りを始め、自分が次に続いた人間」と言った(笑)。


以上、板垣さんからお聞きした話の要点でした。

僕の感想も共有したいと思います。

・地元出身で長年、地域での活動を先導してきた人なので、きっと非常にパワフルな人だろうと、会う前に勝手に想像していた。お会いしてみると、物腰がとても柔らかく、人の話をまずじっくり聞く人だとわかった。

・板垣さんは、「潤滑油のような人」として紹介してもらったのだが、お会いしてその意味もよく理解できた。多くの人や組織が関わる活動において、それぞれの事情や思いを理解したうえで、互いに協力できるように整えるリーダー。潤滑油として全体が円滑に動くように振る舞っていらっしゃるのだろう。


このように勝手に解釈するのはおこがましいのは承知ですが、板垣さんは「ファシリテーターの心を持つリーダー」のお手本だと感じました。とても勉強になりました。

地域づくりファシリテーション研究所

地域づくりの活動それぞれにリーダーが必要。でも、リーダーだけいればうまくいくとは限らない。側面支援も大切。この側面支援を「地域づくりファシリテーション」と称して、その役割を考えていきたい。研究所と名乗っているが、とりあえず仲間たちと共にこじんまりと議論し、実践していくなかでの気付きを記録していく。

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