第45話 佐渡での学び その3

佐渡での学びシリーズは続きます。

次にお話を聞いたのは、菅原亮(すがわら りょう)さん。


2022年1月から佐渡市の地域おこし協力隊として移住しました。

前回ご紹介した板垣さんが代表を務めるトキの水辺づくり協議会の事務局を務めています。

職場も板垣さんと同じくトキ交流会館です。


いきなり余談ですが、菅原さんと僕は初対面ではありませんでした。

以前、お互いの前職のときに、単発ですが雑誌記事を巡り一緒に仕事をしました。

菅原さんが編集者で、僕が執筆者という関係です。


あいにくのコロナ禍で対面では会えませんでしたが、

オンライン打ち合わせ1回と何往復ものメールのやり取りをしました。

菅原さんが親切かつ的確に導いてくれたので、後味のよい仕事となりました。


その後は特に連絡を取り合うこともありませんでした。

今回も、「地域づくりファシリテーター」的な人というこちらの希望に沿ってご紹介を受けました。

つまり、完全な偶然です。


しかし、今回お話をしてみて、考え方に共通点が多いことが分かりました。

もしかすると偶然でなく、必然の再会だったのかもしれません。

菅原さんから聞いたお話の要点をメモの形で共有します。


ここに至る経緯

・大学では哲学専攻。民間企業を経て、JICA海外協力隊でマラウイ派遣(コミュニティ開発)。農家たちと灌漑施設管理の活動などに従事。

・その後、フィリピンのNPOでマングローブ植林や生ごみから液肥づくりなどの活動に従事。その後、地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)勤務(前述の北村との出会いはこのとき)。

・2022年1月から地域おこし協力隊として佐渡に移住。任期終了後の定住を視野に活動中。


自身の地域づくりファシリテーション

・JICA協力隊以来、自分自身、活動地域において裏方の役割を果たしてきた。ファシリテーションのマインドによって、自分が関わる地域での活動が良い未来につながる“うねり(きっかけ)”になればよいと思ってきた。

・佐渡での自分は、外からの視点を提供する役割も担うべきと考える。例えば、協議会の毎月の役員会に参加してみて、正直、ワクワク感があまりないという印象を受けた。以前はきっとあったのだろうが、最近では、大型の助成金を頂いている期間が終わったあとにどうするのか、というとまどいや迷いの雰囲気が覆っている感じがある。

・そこで、協議会としてのビジョン(を作る過程)がほしいところだと考え、板垣氏に提案した(前号参照)。板垣氏も賛同してくれた。これまでを振り返り、それを踏まえて今後を見据えたビジョンを考え、描いていく作業。過去の振り返りと将来のビジョンづくりの両面で、強化できる余地が協議会にあると感じている。

・現在、事前準備として本部会議(コアメンバー)による話し合いを今月(2022年8月)から開始した。いきなり役員会で議論すると負担が増えるうえにまとまりにくくなる恐れがあるので、本部会議で協議会としてのビジョンのたたき台を作成するという工程を導入。

・トキの野生復帰に関する活動団体は高齢化が進んでいる。また、既に400羽以上いるので、野生復帰というより“野生定着”など目的の再検討が必要かもしれない。

・トキとの共生に関わる人たちが上を向く新たな理由がほしい。自分としては、トキだけでは今後は難しいので、より広く「環境」とするのがよいと考えている。餌場としてだけでなく、生物多様性の要素を含めたビオトープなど。


地域の未来像を共創するファシリテーション

・いま作ろうとしているビジョンは、様々な活動を縛るのでなく、むしろ土台となるようなものを想定。大きい円としてビジョンがあり、その円のなかで各活動が連動していくイメージ。その際に、つなぐ人(ファシリテーターあるいはコーディネーター)が必要。

・ビジョンとは「よい未来像」の提示であり、これまでの活動への前向きな意味づけを伴う。これをできる人が必要。その意味で、地域の人はみなファシリテーターでは?

・コミュニケーションによって夢が広がる。その意味では、ファシリテーションとは「未来志向のコミュニケーション」と表現すればなじみやすくなるだろう。

・(北村が使う餅つきの比喩について)「餅をつこう!」と人々に呼び掛けることのできる人もファシリテーター。単にフレンドリーというだけでないノリもありうる。内気でも、場を設えるファシリテーターになりうる。

・佐渡は大きな島なので、島内でも他の地域の情報が伝わりにくい。島内の地域間のつなぎ役も重要。


自身の立ち位置と今後の展望

・地域おこし協力隊は「出島」と考えている。行政本体では難しい「新しいこと」を、行政本体を傷付けることなくできる。

・コーディネーター役として期待を受けており、地域おこし協力隊の任期終了後も、別の持ち場で自分の経験を活用できるだろう。

・一方、地域にはプレイヤー不足の課題もあり、自らプレイヤーとして実践することも考えている。人口減少は、若い人にはチャンスにもなりうる。ポジティブな意味を見出して自ら実践したい。例えば林業。佐渡は急斜面が多く、製材しても運搬のため海を渡る必要があるなど林業の条件が不利。これからの森林管理を担う人材になれれば、という思いもある。


以上が菅原さんからお聞きした話の要点でした。


外からの視点をうまく入れ込むことや、ビジョンづくりを段階的に進めることなど、プロセスの設えの能力をいかんなく発揮している印象を受けました。行動のすべてにファシリテーションの要素が含まれている稀有な人です。


地域づくりファシリテーション(と僕が呼ぶ役割)の意義について、むしろこちらが共感できるような考えもお持ちです。

今回お話したことで、僕のほうが背中を押してもらえた面も大いにあります。


地域の人が自分たちの活動を未来志向でどのように意味づけするのか?

菅原さんのさりげないファシリテーションによって、再びワクワク感が醸成されていく過程をこれからも学ばせていただきたいと感じました。

地域づくりファシリテーション研究所

地域づくりの活動それぞれにリーダーが必要。でも、リーダーだけいればうまくいくとは限らない。側面支援も大切。この側面支援を「地域づくりファシリテーション」と称して、その役割を考えていきたい。研究所と名乗っているが、とりあえず仲間たちと共にこじんまりと議論し、実践していくなかでの気付きを記録していく。

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